いきもの知恵くらべ

口で?背中で?驚きのいきもの子育て術

Tags: 子育て, いきもの, 知恵, 驚き, 防御

いきものの世界には、想像を超えるような驚くべき知性や行動がたくさんあります。特に、次世代に命をつなぐための「子育て」の場面では、親がいかに賢く、そして体を張って我が子を守っているのかを知ると、思わず「すごい!」と感動してしまいます。

人間の子育てにも様々な苦労がありますが、自然界では常に外敵の危険や過酷な環境が待ち構えています。そんな中で、いきものたちはどのようにして大切なわが子を育てているのでしょうか?今回は、ユニークで驚きの子育て術を持ついきものたちをご紹介します。

まるで保育器!口の中で育てる魚たち

魚の中には、メスが産んだ卵をオスまたはメスが口の中に入れて保護しながら育てるという、驚きの方法で子育てをする種類がいます。これを「マウスブリーディング」と呼びます。

有名なのは、熱帯魚として知られるアフリカンシクリッドの仲間などです。親魚は、孵化したばかりの稚魚も、しばらくの間は口の中に入れて守ります。外敵が近づいてくると、親は素早く稚魚を口の中に吸い込み、危険が去るまでじっとしています。

口の中は確かに安全な場所ですが、親は稚魚を保護している間、ほとんど餌を食べることができません。我が子を守るために、親は自身の栄養補給を犠牲にしているのです。これは、強い外敵が多い環境で子孫を残すための、非常に賢明でリスクの高い戦略と言えます。

変温動物なのに?体温で卵を温めるヘビ

ヘビは一般的に、周囲の温度によって体温が変わる「変温動物」です。そのため、鳥類のように自ら体温を上げて卵を温める、というイメージはないかもしれません。しかし、例外的な驚きの子育てをするヘビがいます。それが、ニシキヘビの仲間です。

ニシキヘビのメスは、産んだ卵の周りをとぐろを巻いて囲み、外敵から守るだけでなく、なんと自らの筋肉を細かく震わせることで体温を上げ、卵を適温に保とうとするのです。この行動は「シバリング(shivering)」と呼ばれ、鳥類の抱卵に似ています。

変温動物であるヘビが、自らの体の機能を使って積極的に卵の発生に必要な温度を維持するという行動は、生物学的に見ても非常に珍しく、驚くべき子育ての知恵と言えるでしょう。過酷な環境でも、卵の生存率を高めるための工夫なのですね。

命がけの演技派!仮病で注意をそらす鳥

地上で子育てをする鳥の中には、外敵が巣に近づいてきたときに、まるで翼や足を怪我したかのように地面を這いずり回る「擬傷(ぎしょう)」という行動をとる種類がいます。チドリの仲間などが有名です。

この擬傷行動は、いかにも弱って捕まえやすそうに見せることで、外敵の注意を自分に向けさせ、巣から遠ざけるための命がけの演技です。外敵が親鳥の後を追って巣から十分に離れたところで、親鳥は何事もなかったかのように飛び立って姿を消します。

もし外敵が親鳥にかまわず巣に向かえば、この作戦は失敗に終わる可能性もあります。しかし、多くの場合、目の前の「怪我した獲物」に外敵の関心は移ります。我が子を守るためなら、自らが危険な囮になることもいとわない、鳥たちの賢く勇敢な子育て術です。

上手に隠すプロ!茂みを利用するシカ

哺乳類であるシカの仲間、特にニホンジカなどは、生まれたばかりの子ジカをすぐに歩かせず、安全な茂みなどに隠して置いていきます。母親は子ジカから少し離れた場所で休み、授乳の時だけ子ジカの元に戻ります。

生まれたばかりの子ジカは体毛が周囲の草木に溶け込むような模様をしており、また、匂いをほとんど発しないという特徴があります。母親は、子ジカを隠す場所を選ぶ際にも、外敵に見つかりにくい茂みの密度や風向きなどを考慮していると考えられています。

母親が子ジカのそばにつきっきりでいると、母親の匂いや存在が外敵に気づかれやすくなってしまいます。あえて子ジカを単独で隠すという行動は、子ジカ自身のカモフラージュ能力と合わせて、外敵から見つかるリスクを分散させるための巧妙な子育ての知恵と言えるでしょう。

まとめ:多様ないきものたちの愛情と工夫

口の中で稚魚を守る魚、体温で卵を温めるヘビ、仮病で外敵を欺く鳥、上手に子を隠すシカ――。今回ご紹介したいきものたちの他にも、子孫を残すために親がいかに多様な工夫を凝らしているかを知ると、生命の神秘と親の愛情の深さに改めて感動させられます。

これらの行動は、単なる本能だけでなく、環境に適応し、子孫の生存率を高めるために進化の過程で磨かれてきた「知恵」の結晶とも言えます。

「いきもの知恵くらべ」では、これからも生物たちの驚くべき能力や面白い行動をご紹介していきます。友人との会話のネタになるような「へぇ!」を見つけていただけたら嬉しいです。