いきもの知恵くらべ

生まれたときから賢い!遺伝子に組み込まれた驚きの行動

Tags: 本能, 遺伝子, 行動学, 生物戦略, 昆虫

生まれたときから「説明書」を持っている?いきものの不思議な能力

私たち人間は、生まれてから様々なことを学び、経験を積み重ねて成長していきます。歩く、話す、計算する、そして複雑な社会生活を送るためのルールや知識も、周囲の人や教育を通して身につけていきます。

では、野生のいきものたちはどうでしょうか?生まれたばかりの動物が、誰かに教わることもなく、狩りの方法を知っていたり、決まった巣の形を作ったり、遠い場所へ迷わず移動したりするのを見たことはありませんか?まるで、彼らの体の中に、生まれる前から「行動の説明書」が組み込まれているかのようです。

このような、生まれつき備わっていて、特に学習や経験を必要としない複雑な行動は「本能行動」と呼ばれます。そして、この本能行動の多くは、彼らの遺伝子に刻み込まれていると考えられています。今回は、まるで遺伝子にプログラムされたかのような、いきものたちの驚きの行動をご紹介します。

麻酔使いから子育てまで!ジガバチの完璧すぎるプログラム

カリバチの一種であるジガバチの行動は、本能行動の典型としてよく知られています。メスのジガバチは、子育てのために単独で行動します。まず、獲物となるバッタやキリギリスを見つけると、その急所を正確に針で刺して麻痺させます。完全に殺さず、生きたまま動けなくするのがポイントです。

獲物を麻痺させたら、次に地面に巣穴を掘ります。巣穴の準備ができると、麻痺させた獲物をその巣穴まで運び込みます。獲物が大きくて運ぶのが大変でも、地面を引きずるなどして根気強く運びます。巣穴に獲物を収めたら、その獲物の体に卵を産み付けます。そして最後に、巣穴を土で完全に埋めてしまいます。

これらのジガバチの一連の行動は、生まれつき体に備わっているプログラムに従って行われていると考えられています。獲物を麻痺させる正確さ、巣穴の掘り方、獲物の運び方、卵の産み付け位置、巣穴の埋め方など、どれも複雑で無駄がありません。親から教わるわけでもなく、経験を積んで上手くなるというよりは、最初からこの行動ができるのです。これは、子孫を残すという生存にとって非常に重要な行動が、遺伝子によって強く制御されている例と言えるでしょう。

自分の卵じゃないのに…カッコウの托卵とヒナの「おそうじ」

鳥の中には、他の種類の鳥の巣に卵を産み付け、子育てを任せる「托卵(たくらん)」を行うものがいます。代表的なのがカッコウです。カッコウのメスは、自分では巣を作らず、ウグイスなどの他の鳥(宿主)の巣を探して卵を産みます。

驚くのは、カッコウのヒナが孵化してから見せる行動です。カッコウのヒナは、宿主のヒナや卵が巣の中にあると、背中を使ってそれらを巣の外に押し出してしまうのです。生まれて間もない、目も開いていないようなヒナが、自分の数倍もある卵やヒナを、必死になって巣から落とそうとします。この行動は、宿主の親鳥からのエサを独占するために行われると考えられていますが、誰に教えられるわけでもなく、生まれつきプログラムされている行動なのです。

宿主の卵やヒナを巣から「おそうじ」することで、カッコウのヒナは親鳥の愛情とエサを独り占めできます。この大胆かつしたたかな戦略も、遺伝子に組み込まれた本能行動によって支えられているのです。

生存に不可欠な「プログラム」の力

ジガバチやカッコウの例のように、生物が生まれながらにして行う複雑な行動は、彼らが生き残り、子孫を残すために非常に重要な役割を果たしています。学習に時間をかける余裕がない、あるいは環境が比較的安定していて特定の行動パターンが常に有利であるような場合には、遺伝子に組み込まれた行動が、より確実で効率的な生存戦略となり得るのです。

もちろん、全ての行動が遺伝子だけで決まっているわけではありません。多くの生物は、本能的な行動の基盤を持ちつつも、学習や経験によって柔軟に対応し、環境の変化に適応していきます。しかし、今回ご紹介したような、まるで精密なプログラムのように実行される行動を知ると、「いきものって、生まれる前からこんなすごい能力を持っているんだ!」と、改めてその不思議な知恵に驚かされますね。

彼らの体内に秘められた、遺伝子という名の「説明書」。そこには、私たちがまだ知らない、いきものたちの多様で驚くべき生きる戦略がたくさん詰まっているのでしょう。