七色に輝く秘密?いきものたちの驚きの「体内カラーリング」術
私たち人間は、服の色を変えることで印象を変えたり、気分を変えたりします。でも、生きものの中には、文字通り自分の「体」の色を、あっという間に、しかも自在に変えてしまう達人がたくさんいるのをご存じでしょうか。
単に保護色になるだけでなく、仲間とのコミュニケーションや、時には感情表現にまで色を使うという、驚きの「体内カラーリング」術をご紹介します。
体色変化の達人、カメレオンの秘密
体色を変化させると聞いて、まず思い浮かべるのはカメレオンかもしれません。緑色の葉っぱの上にいるときは緑色、木の枝に移ると茶色に変わる。まるで魔法を見ているようですよね。
カメレオンが体色を変える仕組みは、皮膚の表面にある色素細胞や、光を反射する細胞の構造を巧妙に操作することによります。
例えば、皮膚の層には黄色や赤、黒などの色素を持った細胞があります。これらの細胞を広げたり縮めたりすることで、見える色の濃さや範囲が変わります。さらに、その下にはイリドフォアという特殊な細胞層があり、ここに光が当たると特定の色の光だけを強く反射します。このイリドフォアの細胞の構造(ナノクリスタルという微細な結晶の配置)を変化させることで、反射する光の色を変えることができるのです。
カメレオンは、単に周りの環境に溶け込む保護色として色を変えるだけでなく、温度や光の加減、そして驚くべきことに、自分の「感情」に合わせて体色を変化させます。興奮したり、仲間と争ったり求愛したりするときには、普段とは全く違う鮮やかな色になることがあります。これは、脳から神経を通じて送られる信号が、これらの細胞の動きをコントロールしていると考えられています。まさに、体の中でパレットと筆を動かしているようなものですね。
一瞬で色を変える海のアーティスト、イカやタコ
カメレオンの色変化もすごいですが、海の生きものにはさらに驚異的なスピードで体色を変える達人がいます。それが、イカやタコ、コウイカなどの頭足類(とうそくるい)です。
彼らの体色変化は、カメレオンよりもはるかに速く、まるでスクリーンのように模様や色が一瞬で、時には波打つように変化します。その秘密は、彼らの皮膚にびっしりと詰まった「色素胞(しきそほう)」という特殊な細胞にあります。
色素胞は、それぞれ黒、赤、黄色、褐色などの色を持った袋状の構造で、その周りを筋肉が取り囲んでいます。この筋肉が収縮したり弛緩したりすることで、色素胞が広がり色が濃く見えたり、縮んで色が薄くなったりします。しかも、この筋肉の動きは脳からの直接的な神経信号によって制御されており、瞬時に切り替えることができるのです。
色素胞の下には、光を反射する「虹色素胞(こうさいしきそほう)」や、白い光を反射する「白色素胞(はくしょくしきそほう)」といった細胞層もあります。これらの細胞層も、構造や光の反射の仕方を変化させることで、青や緑、白といった色や、金属のような光沢を作り出すことができます。
イカやタコは、これらの色素胞、虹色素胞、白色素胞を組み合わせ、まるでグラフィックデザイナーのように複雑な模様や色を作り出します。これは、捕食者から隠れるための擬態だけでなく、仲間とコミュニケーションをとったり、敵を威嚇したりするためにも使われます。彼らは目から入る情報をもとに、脳が瞬時に判断し、全身の体色をコントロールしているのです。これは、高度な視覚情報処理能力と、それを体色に変換する驚異的な能力の証と言えるでしょう。
色素を持たずに色を出す?構造色のふしぎ
さて、これまでご紹介したいきものは、体内の「色素」や細胞の構造を操作することで色を作り出していましたが、中には「色素」そのものはほとんど持たずに、鮮やかな色を見せる生きものもいます。それが「構造色」と呼ばれる色を持つ生きものです。
例えば、モルフォチョウの鮮やかな青い翅(はね)や、タマムシのメタリックな輝き、クジャクの羽の美しい色は、色素によるものではありません。これらの色の秘密は、体の表面にある微細な構造にあります。光がこの微細な構造(例えば、何層にも重なった薄い膜や、格子状の構造)に当たると、特定の色の光だけが反射されたり、互いに強め合ったり弱め合ったり(これを「光の干渉」といいます)することで、私たちの目に鮮やかな色として映るのです。
これは、石鹸の泡が七色に見えたり、CDの表面が虹色に見えたりするのと同じ原理です。生きものたちは、自分の体をナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)レベルの精密さで設計し、光の物理的な性質を巧みに利用して色を作り出しているのです。
構造色は、光の当たり方や見る角度によって色が変わって見えるという特徴があります。これは、構造が作り出す色が、光の波長と構造のサイズの関係で決まるためです。色素の色は角度が変わっても基本的には同じ色に見えますが、構造色は角度によって色の見え方が変化します。
生きものたちが、体内に色素を持つ方法だけでなく、体表の構造を物理的にデザインして色を生み出すというのは、まさに自然界の驚くべき知恵であり、エンジニアリングと言えるでしょう。
まとめ:体色を操る、生きものたちの多様な知恵
カメレオンのように色素細胞や光を反射する細胞を操作する生きもの、イカやタコのように色素胞を瞬時に開閉させる生きもの、そしてモルフォチョウのように微細な構造で光を操る生きもの。
彼らが体内で色を作り出し、変化させる技術は、それぞれ異なれど、生存やコミュニケーション、繁栄のために進化させてきた驚くべき知恵の結晶です。周囲の環境に溶け込むため、仲間と意思疎通するため、敵を威嚇するため、そしてもしかしたら、自身の感情を表現するためにも。
普段何気なく見ている生きものの体色も、その裏には驚くほど巧妙で複雑な仕組みが隠されているのです。次に生きものを見る機会があったら、その「色」にどんな秘密が隠されているのか、少し立ち止まって想像してみるのも面白いかもしれませんね。